2024/11/24 twst フロカリ / 水辺の魔物続きを読む 見上げるほど背の高い本棚がたくさん並ぶ場所。いわゆる図書館と呼ばれるそこにカリムはいた。 普段の彼とは縁のないこの場になぜいるのかと言うと、単純に授業の課題のためだった。 最初は至って普通に課題に使う本を探していたのだが、気がつけば課題とは全く関わりのない棚の隙間に入り、そこにあった一冊の本を手にとっていた。 本は水の妖の物語だった。 本来であれば心を持たない水の妖が、人間の男に恋することによって心を手にすること。その男のもとへと嫁ぎ、幸せになること。しかし、男が他の女に恋をし、妖を疎んでしまうこと。 最後には愛した男の瞳に己の涙を落とし、永遠の眠りにつかせるまでが描かれていた。 カリムは本を読むことが苦手だが、この話はなぜだかとてもこの妖に感情移入をしてしまったからか、鮮やかに物語を頭の中で思い描くことができた。 おかげで本を抱いてぼろぼろと泣くはめになっているのだが。 ぎゅうぎゅうと辛い気持ちが心臓を締め付けるようだった。水の妖にとって一度きりの恋、その恋が叶ったときはどれだけ嬉しかっただろう。 そしてその恋が失われてしまったとき、どれだけ哀しかっただろう。本を読んでいただけのカリムでこうなのだから、実際にはどれだけのことなんだろうか。 知り合いに水の妖はいない。そもそも、水の妖は妖精族の類いなのだろうか、そこのところは詳しく書かれてはいなかったけれど。 とにかく何よりもカリムが苦しかったのは、妖が最後に愛した人を己の涙で殺さなければならなかったことだ。 そうしなければいけない決まりで、運命だったとしても、ただ一人愛した相手を殺さないといけないだなんて残酷すぎる。 妖に心がないままだったなら良かっただろうが、そもそも男を愛さなければ心なんて生まれなかった。男が他の人に目移りなんてしなければよかったのに。そうすれば二人は幸せになりました、めでたしめでたし。なんて、ご都合主義にまみれたお伽噺だと言われようとも、カリムはその方が好きだった。 タイトルになんとなく心惹かれて読んでみてしまったが、読まなければよかったかもしれないと今更ながら後悔する。 途中で読むのをやめてしまえばよかったのだ。普段は本なんて読まないのだから。 けれどこれは、何故か読んでしまった。水の妖、なんて。なんとなく己の恋人のことを思い浮かべてしまったがゆえに。 もしもだ。カリムの恋人が自分以外を好きになってしまった場合、カリムはどうするだろうと考えた。 きっと笑顔で相手を祝福して、相手とその好きな人の幸せの門出を祝うだろう。何なら宴を開いたりもするかもしれない。 痛い痛いと嘆く自分の心に蓋をして。 だってそれは何れ来る痛みだ。いつまでも幸せな恋人同士でいられるわけがない。カリムは自分の立場を理解している。 相手も相当の気分屋であることを知っている。だからいつかの覚悟しておかなければならない。ああ、それでも。 一瞬でも、己の涙で相手を殺せたら、と。相手の涙で己に死を、と。願ってしまった自分が、ひどく憎らしい。「ラッコちゃん? なぁに泣いてんの?」「ふっ、フロイド……っ!?」 抱きしめていた本を握る手に力が入った。涙でボロボロの顔を上げると、不思議そうにしている恋人がそこにいた。 慌てて本を隠そうとするが、その前に気付かれる。どうも彼も読んだことがあるらしく、「ああ、その本」と呟いた。「人間てほんと面白いのもの書くよねぇ。人間以外の種族に夢見すぎぃ」「お、面白かったのか? フロイドは」 カリムの腕から本を取り上げて、ぱらぱらと頁を捲るフロイドはまぁねと一度頷くだけだ。それ以上の感想はない。カリムは本を取り返そうと手を伸ばす。「まぁ、でもね」 伸ばした指先が掴まれる。そのまま、ずい、と顔が寄せられる。「ラッコちゃんの心配してることは絶対におこんないよ」 人魚の恋は苛烈で一途なのだとからりと笑うフロイドに、カリムはぽかんと口を開けた。 それはどういう意味だろうか。頭が働かないカリムの代わりに、フロイドは本を書架に戻した。そして別の本をカリムにぽんと渡す。「はいこれ、課題に使う本。ちゃっちゃと課題終わらせて遊ぼぉ」「ぅえ、うん、ああ、わかった?」 いつの間にやらカリムの涙は止まってて、歩みだすフロイドの後に大人しくついていく。 残された何も言わない本達に向かって、フロイドはちらりと目線だけで振り返り、にやりと笑んで見せた。畳む
見上げるほど背の高い本棚がたくさん並ぶ場所。いわゆる図書館と呼ばれるそこにカリムはいた。
普段の彼とは縁のないこの場になぜいるのかと言うと、単純に授業の課題のためだった。
最初は至って普通に課題に使う本を探していたのだが、気がつけば課題とは全く関わりのない棚の隙間に入り、そこにあった一冊の本を手にとっていた。
本は水の妖の物語だった。
本来であれば心を持たない水の妖が、人間の男に恋することによって心を手にすること。その男のもとへと嫁ぎ、幸せになること。しかし、男が他の女に恋をし、妖を疎んでしまうこと。
最後には愛した男の瞳に己の涙を落とし、永遠の眠りにつかせるまでが描かれていた。
カリムは本を読むことが苦手だが、この話はなぜだかとてもこの妖に感情移入をしてしまったからか、鮮やかに物語を頭の中で思い描くことができた。
おかげで本を抱いてぼろぼろと泣くはめになっているのだが。
ぎゅうぎゅうと辛い気持ちが心臓を締め付けるようだった。水の妖にとって一度きりの恋、その恋が叶ったときはどれだけ嬉しかっただろう。
そしてその恋が失われてしまったとき、どれだけ哀しかっただろう。本を読んでいただけのカリムでこうなのだから、実際にはどれだけのことなんだろうか。
知り合いに水の妖はいない。そもそも、水の妖は妖精族の類いなのだろうか、そこのところは詳しく書かれてはいなかったけれど。
とにかく何よりもカリムが苦しかったのは、妖が最後に愛した人を己の涙で殺さなければならなかったことだ。
そうしなければいけない決まりで、運命だったとしても、ただ一人愛した相手を殺さないといけないだなんて残酷すぎる。
妖に心がないままだったなら良かっただろうが、そもそも男を愛さなければ心なんて生まれなかった。男が他の人に目移りなんてしなければよかったのに。そうすれば二人は幸せになりました、めでたしめでたし。なんて、ご都合主義にまみれたお伽噺だと言われようとも、カリムはその方が好きだった。
タイトルになんとなく心惹かれて読んでみてしまったが、読まなければよかったかもしれないと今更ながら後悔する。
途中で読むのをやめてしまえばよかったのだ。普段は本なんて読まないのだから。
けれどこれは、何故か読んでしまった。水の妖、なんて。なんとなく己の恋人のことを思い浮かべてしまったがゆえに。
もしもだ。カリムの恋人が自分以外を好きになってしまった場合、カリムはどうするだろうと考えた。
きっと笑顔で相手を祝福して、相手とその好きな人の幸せの門出を祝うだろう。何なら宴を開いたりもするかもしれない。
痛い痛いと嘆く自分の心に蓋をして。
だってそれは何れ来る痛みだ。いつまでも幸せな恋人同士でいられるわけがない。カリムは自分の立場を理解している。
相手も相当の気分屋であることを知っている。だからいつかの覚悟しておかなければならない。ああ、それでも。
一瞬でも、己の涙で相手を殺せたら、と。相手の涙で己に死を、と。願ってしまった自分が、ひどく憎らしい。
「ラッコちゃん? なぁに泣いてんの?」
「ふっ、フロイド……っ!?」
抱きしめていた本を握る手に力が入った。涙でボロボロの顔を上げると、不思議そうにしている恋人がそこにいた。
慌てて本を隠そうとするが、その前に気付かれる。どうも彼も読んだことがあるらしく、「ああ、その本」と呟いた。
「人間てほんと面白いのもの書くよねぇ。人間以外の種族に夢見すぎぃ」
「お、面白かったのか? フロイドは」
カリムの腕から本を取り上げて、ぱらぱらと頁を捲るフロイドはまぁねと一度頷くだけだ。それ以上の感想はない。カリムは本を取り返そうと手を伸ばす。
「まぁ、でもね」
伸ばした指先が掴まれる。そのまま、ずい、と顔が寄せられる。
「ラッコちゃんの心配してることは絶対におこんないよ」
人魚の恋は苛烈で一途なのだとからりと笑うフロイドに、カリムはぽかんと口を開けた。
それはどういう意味だろうか。頭が働かないカリムの代わりに、フロイドは本を書架に戻した。そして別の本をカリムにぽんと渡す。
「はいこれ、課題に使う本。ちゃっちゃと課題終わらせて遊ぼぉ」
「ぅえ、うん、ああ、わかった?」
いつの間にやらカリムの涙は止まってて、歩みだすフロイドの後に大人しくついていく。
残された何も言わない本達に向かって、フロイドはちらりと目線だけで振り返り、にやりと笑んで見せた。畳む